計算論的精神医学研究室
(Computational Psychiatry Lab)

精神医学における症状は“ことば”で記述される。精神病理学によって精神症状学という“ことば”の記号体系が構築されてきたが、精神症状は“ことば”のみでしか記述できないわけではなく、他の記号体系、例えば数学によって記述されてもよい。計算論的精神医学は精神病理学の方法論の一つであるとも言えよう。一方、脳活動・脳機能も数学によって記述し得るが、精神現象と脳活動・脳機能という異なる現象を同じ記号体系によって記述することができるのが、計算論的精神医学の特質であろう。身体医学に比し、精神障害のほとんどは、診断や治療に役立つような生物学的知見は未だに得られていない。精神医学においては、症状論、病態論、治療回復論において、精神と脳とを連繫させることが必要であるが、計算論的精神医学にその可能性を見ている。

NIMHの所長Joshua A. Gordonは、今後の精神医学における計算論的アプローチの重要性を強調し、NIMHにおいて“Computational Psychiatry Program”を開始している。我々も、この新しい研究アプローチの発展は精神医学において必須であると考えており、Sense of Agency研究を主軸に据えて研究を進めて行く所存である。

Members

前田貴記(慶應義塾大学医学部精神・神経学科学教室)
三村 將(慶應義塾大学病院予防医療センター)
山下祐一(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター)
沖村宰(昭和大学発達障害医療研究所、慶應義塾大学医学部精神・神経学科学教室)
大井博貴(慶應義塾大学医学部精神・神経学科学教室)

[共同研究者]
太田順(東京大学人工物工学研究センター)
田中昌司(上智大学理工学部情報理工学科)
国里愛彦(専修大学人間科学部心理学科)
片平健太郎(国立研究開発法人産業技術総合研究所)
寺澤悠理(慶應義塾大学文学部 心理学専攻)
深澤佑介(上智大学応用データサイエンス学位プログラム)

Projects

  • 主体感(Sense of Agency)の精度向上のための認知リハビリテーションの開発と臨床応用
    (文部科学省新学術領域研究「超適応 Hyper-Adaptability」(公募第2期)https://www.hyper-adapt.org/
  • 精神障害患者の会話コーパス構築と発話特徴に基づいた診断支援AIの開発
    (日本学術振興会 科学研究費助成事業 挑戦的研究(萌芽))
  • 主体感(Sense of Agency)の精度向上による神経疾患・精神疾患における超適応の促通
    (文部科学省新学術領域研究「超適応 Hyper-Adaptability」https://www.hyper-adapt.org/
  • リカレント・ニューラルネットワーク(RNN)を用いたsense of agency: SoAの生成機序、統合失調症におけるSoA異常の病態生理への計算論的アプローチ
    (文部科学省新学術領域研究「脳内身体表現の変容機構の理解と制御」http://embodied-brain.org/
  • Mobile Mental Healthプロジェクト:
    機械学習によるスマートフォンログからストレス状態を推定する技術の開発
    (東京大学人工物工学研究センター、NTTドコモサービスイノベーション部との共同研究https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2018/03/19_02.html
    https://www.nttdocomo.co.jp/info/news_release/2019/04/12_01.html
  • 予測符号化(predictive coding)理論に基づく発達障害の病態理解と支援技術の開発
    (JST CREST「認知ミラーリング:認知過程の自己理解と社会的共有による発達障害者支援」 http://cognitive-mirroring.org/
  • 自閉症スペクトラム障害の注意障害の病態と、それに対する経頭蓋磁気刺激の治療効果の機序に関する計算論的アプローチからの理論的示唆
    (昭和大学発達障害医療研究所における「平成31年度文理融合型の共同研究」)

令和5年6月28日(水)【closed meeting】
横須賀俊哉(慶應義塾大学医学部医学科5年)
「強化学習を用いた依存症のモデリングについて」

第12回研究会
令和4年4月28日(木曜日)
三輪秀樹(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所精神薬理研究部 分子精神薬理研究室)
「統合失調症GABA仮説に基づく動物モデルと妥当性評価指標-ガンマオシレーションとスピンドル波-」
概要:
 統合失調症は、陽性症状・陰性症状・認知機能障害などの多様な臨床症状を呈する精神疾患であるが、神経生物学的には単一の疾患ではなく、複数の神経回路病態が併存する「統合失調症スぺクトラム」であり、患者ごとに異なる症状や臨床経過あるいは治療反応性を示していると考えられている。また、統合失調症の主訴である幻覚や妄想などの精神症状は「ヒト特有の病理現象である」という考えが一般的であり、健常人あるいは患者を対象とした脳画像研究が数多くなされているものの、マウスなど実験動物を用いた細胞・神経回路レベルでの研究とのギャップがあり、限界があるとも考えられてきた。たとえば、実験動物をもちいた精神疾患研究では、精神疾患患者と類似の行動を示すという指標(表面妥当性)に基づき、疾患モデルを評価することが多いが、一見ヒトと似たように見えるマウスの行動が、実際にヒトの行動とどれだけ対応するのかは不明であり、その検証も困難である。しかしながら、申請者はこの限界に挑戦し、精神疾患研究における、マウスなどの実験動物と臨床研究との橋渡しをする双方向トランスレーショナル研究の一助となる神経生理学的指標として、ガンマ帯域オシレーションおよびノンレム睡眠スピンドル波に着目し、疾患横断的な共通病態の解明を目指している。
 今回は統合失調症のGABA仮説(Lewis DA & Gonzalez-Burgos G, 2006)に基づいて作成した パルブアルブミン(PV)ニューロン特異的にGABA合成酵素GAD67遺伝子を欠損させたPVニューロン特異的遺伝子欠損マウス(PV-GAD67 KOマウス)およびアデノ随伴ウイルスを用いた視床網様核特異的GAD67欠損マウスを用いて、ガンマ帯域オシレーションとスピンドル波に関する病態解析およびその妥当性の検証を紹介したい(Miwa, Neuropsychopharmacology. 2015; Kuki, Miwa et al., Front Neural Circuits. 2015;三輪、生物学的精神医学会誌 2020)。

第11回研究会
令和3年12月17日(金曜日)
高須正太郎 (京都大学大学院情報学研究科)
「物理学の観点から見た脳のダイナミクスと機能」
概要:
脳は、膨大な数のニューロンが協調して活動することにより、高度な情報処理を行っている。一般に、多数の素子が互いに相互作用を及ぼしながら時間発展していく系は、物理学において研究が進められてきており、様々な概念や解析手法が整備されている。脳を適切な数理モデルで表すことによって、統計物理学や非線形力学で開発された手法を適用することができ、直感を超えた、脳の深い理解が可能となる。本講演では、このような物理学の視点から脳のダイナミクスと機能について検討する。まず導入として、脳の自発活動に関する実験事実を概観し、脳をダイナミクスの視点から見る必要性を述べる。次に、非線形力学と統計物理学で用いられる、アトラクターと熱力学的極限(N→∞)の概念を紹介する。これらの導入の後、神経細胞の数理モデルとしてよく用いられる3つのモデル(スパイクモデル、発火率モデル、振動子モデル)を説明し、これらが多数結合したニューラルネットワークのダイナミクスを検討する。次に、近年工学応用が進んでいる人工知能技術の一つであるレザバー計算機(Reservoir computing)の観点から、ニューラルネットワークのダイナミクスと計算性能との関係を検討する。最後に、脳のダイナミクスと精神疾患(特に統合失調症)との関係について、演者の考えを述べる。なお本講演では、いくつかの数式(微分方程式)が登場するが、式の表す意味を感覚的に理解できるよう説明するため、数学的な予備知識は不要である。

第10回研究会
令和3年9月3日(金曜日)
高田則雄(慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室)
「統合失調症に関わるとされる視床網様核の新規振動活動と安静時脳活動との関わり」
概要:
慶應精神科唯一の基礎研究室として生きているマウスを対象とした脳科学に取り組んでいます。研究会ではマウスだから可能な脳活動計測の成果と、最近取り組み始めた行動モデリングについて話します。具体的にはマウスの機能的MRIと神経科学的手法とを融合して見つけた、視床網様核の新規活動と安静時脳活動との関連を紹介します。本結果は2021 ISMRMのシンポジウムで発表しました: ”A Novel Oscillatory Activity of the Thalamic Reticular Nucleus & Its Relation to Resting-State Networks of the Brain” (学会に参加された方は録画を視聴可能と思いますwww.ismrm.org/21/program-files/MIS-11.htm)。行動モデリングについてはマウス行動課題とドーパミン計測とを組み合わせた解析についてお話しします。

第9回研究会
令和3年5月14日(金曜日)
宮田淳(京都大学大学院医学研究科 脳病態生理学講座 精神医学教室)
「 統合失調症の異常Salience仮説の拡張」

第117回 日本精神神経学会学術総会 シンポジウム JSPN2021シンポジウム主旨
『計算論的精神医学の果たすべき役割と展望:数理・データ科学によるこころと脳の架橋に向けて』
日時:2021年9月21日(火)8:30~10:30
会場:O会場(国立京都国際会館 Room K)(http://www.congre.co.jp/jspn117/index.html
【司会】
山下祐一(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第七部)
前田貴記(慶應義塾大学 医学部 精神神経科)
【シンポジスト】 
高橋英彦 (東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 精神行動医科学)
「データ駆動型アプローチによる精神疾患のバイオマーカーや新規介入法の開発」 
宮田淳 (京都大学大学院 医学研究科 脳病態生理学講座 精神医学教室)
「異常サリエンス仮説の拡張と計算論的アプローチ」
山下祐一 (国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第七部)
「計算論的精神医学による疾病概念の創出:データ駆動・理論駆動の統合的アプローチ」
国里愛彦(専修大学 人間科学部 心理学科)
「精神療法の作用メカニズムに対する計算論的アプローチ」
【指定討論】
村井俊哉(京都大学大学院 医学研究科 脳病態生理学講座 精神医学教室)

第8回研究会
令和3年1月29日(金曜日)
矢野史朗(東京農工大学情報工学専攻)
「数理モデルを用いたSense of Agency研究の動向と解説」
概要:
Sense of Agencyの数理モデル・計算論的モデルの近年の試みとして、Moore & Fletcher(2012)、Legaspi & Toyoizumi (2019)、Yano et al.(2020)を題材に、それらの数学的基礎・研究戦略・研究内容についてコメント・解説を加えていく。

第7回研究会
令和2年10月2日(金曜日)
大関洋平(東京大学 大学院総合文化研究科 言語情報科学専攻)
「心理言語学における計算論的転回」
概要:
伝統的な心理言語学では、人間の言語処理に対する実験的アプローチが専らの主流でした。しかしながら、人間の言語処理も究極的には脳内で実現される情報処理であるというアルゴリズムの観点が欠如しており、計算理論と行動データの間に説明のギャップが生じているという問題があります。そこで、本講演では、伝統的に心理言語学で取り組まれてきた人間の言語処理に対して計算論的アプローチで取り組む「計算心理言語学(Computational Psycholinguistics)」の概要を紹介します。計算心理言語学では、昨今の機械学習やビッグデータの急速な進歩に伴い、「自然言語処理」(Natural Language Processing; NLP)で開発された確率生成モデルや人工ニューラルネットワークを人間の言語処理の計算モデルとして構築し、実験心理言語学で蓄積された行動データで検証します。加えて、説明対象こそ異なるものの、問題意識や研究方法が酷似する計算論的精神医学との並行性を強調しつつ、言語の認知神経科学や神経心理学に対する計算論的アプローチに向けて展望を述べます。

第6回研究会 総評
令和2年6月19日(金曜日)
国里愛彦(専修大学人間科学部心理学科)
「ベイズ推論モデルの恐怖条件づけ現象への適用」
概要:
恐怖症の生起メカニズムの説明には,古典的条件づけ(恐怖条件づけ)から説明がなされてきており,心理的介入においては,それに基づいたエクスポージャー療法が有効とされる。条件刺激の単独提示を行うエクスポージャー法によって,恐怖刺激との連合が解除されるとされてきたが,エクスポージャー後に恐怖の再発が生じることがあり,それを説明するモデルがいくつか提案されてきている。そのようなモデルの1つとして,ノンパラメトリックベイズの観点から,古典的条件づけにおける学習を潜在的な原因の推測過程であると考える潜在因果モデルも提案されてきている。本発表では,恐怖条件づけの消去と再発についてこれまで報告されている現象と提案されてきているモデルについて紹介し,ベイズ推論モデルの一種である潜在因果モデルの紹介をする。

第116回 日本精神神経学会学術総会 シンポジウム JSPN2020シンポジウム主旨
『主体性(Agency)の精神医学におけるトランスレーショナルリサーチ:ニューラルネットワークの統合的理解』
日時:2020年9月28日(月)13:30~15:30
会場:WEB開催(https://www.c-linkage.co.jp/jspn116/
【司会】
前田貴記(慶應義塾大学 医学部 精神神経科)
山田光彦(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神薬理研究部)
【シンポジスト】
前田貴記(慶應義塾大学 医学部 精神神経科)
「主体性(Agency)の精神医学:自己意識の実証的研究のための方法論」
山田光彦(国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神薬理研究部)
「動物モデルを用いて運動主体感のメカニズムに迫る」
山下祐一(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第七部)
「脳の計算理論を用いて運動主体感異常の病態メカニズムに迫る」
鈴木啓介(サセックス大学)
「バーチャルリアリティによる運動主体感のメカニズムの理解とその応用」
【指定討論】
村井俊哉(京都大学 医学部 精神科)

第5回研究会 総評
令和2年1月17日(金曜日)
深澤佑介(株式会社NTTドコモ R&Dイノベーション本部)
「機械学習の潮流およびモバイルメンタルヘルスでの活用事例」
概要:
近年、スマートフォンやウェアラブルデバイスを活用したストレス状態や精神状態の検知に関する技術開発が進んでおり、当分野では機械学習技術がコアな技術として利用されている。本講演では、主な機械学習技術(教師あり・なし学習、強化学習、生成モデル、深層学習)の概要および説明可能なAI(XAI)や国際的なデータ分析コンペティション等の最新のトピックについて概説する。さらに、モバイルメンタルヘルス分野での機械学習技術の活用事例と、当分野における機械学習の利用方法(仮説立案、特徴量生成、モデル選択、評価方法等)について紹介する。

第4回研究会 総評
令和元年11月8日(金曜日)
片平健太郎(名古屋大学大学院情報学研究科)
「行動データの計算論モデリングの基礎と精神疾患研究への適用」
概要:
データの背後にあると考えられる計算過程を表現するモデルを用いてデータを分析する枠組みを、計算論モデリングと呼ぶ。行動データの計算論モデリングにより、個人の行動を計算論モデルのパラメータにより特徴づけること、また計算過程に関する複数の仮説を比較検証することが可能になる。計算論モデリングは神経科学や心理学においてのみならず、各種の精神疾患に特徴的な計算過程をとらえる方法として、計算論的精神医学においても主要な研究アプローチの一つとなりつつある。本研究会でははじめに、強化学習モデルやベイズ推論モデルを用いた行動データの計算論モデリングについて、その基本的な原理や方法について解説する。その後、精神疾患研究への適用事例を概観しながら、計算論的精神医学における方法論としての可能性や限界、適用する際の注意点等について議論する。

第3回研究会 総評
令和元年8月9日(金曜日)
山下祐一(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)
「ニューラルネットワーク・モデルを用いた精神疾患研究」
概要:ニューラルネットワーク・モデルは、ニューロン素子とシナプス結合により構成される計算モデルであり、生物の神経回路網を模している点では前回扱った生物物理学的モデルと類似している。生物物理学的モデルが、個々のニューロンのスパイクレベルをモデル化するのに対し、ニューラルネットワークは、ニューロン集団の発火頻度(周波数)を表現することで脳領域間の相互作用といったより抽象度の高いレベルをモデル化する。最大の違いは、学習によりシナプス結合を最適化する強力なアルゴリズムが存在し、連想記憶、感覚・運動マッピング、時系列パターンの生成など、さまざまな知的情報処理を実現できる点である。これにより、複雑な認知・行動プロセスをモデル化し、その失調としての精神障害の病態理解に貢献することが期待される。研究会では、ニューラルネットワークの概要と代表的な精神疾患研究に加えて、最新の研究動向について紹介する。

第115回 日本精神神経学会学術総会 シンポジウム
『統合失調症のSense of Agency研究:精神病理学-計算論的精神医学-神経科学の連繋』
日時:2019年6月22日(土)10:20-12:20
会場:新潟・朱鷺メッセ 4F国際会議室(M会場)
【司会】
前田貴記(慶應義塾大学 医学部 精神神経科)
山下祐一(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第七部)
【シンポジスト】
「統合失調症における自我障害の精神病理学」
前田貴記(慶應義塾大学 医学部 精神神経科)
「統合失調症における自我障害の神経心理学:Sense of Agencyとは?」
大井博貴(駒木野病院 精神科、慶應義塾大学 医学部 精神神経科)
「統合失調症におけるSense of Agencyの神経生理学」
温文(東京大学 大学院工学系研究科 精密工学専攻) 
「予測符号化理論に基づく統合失調症の病態理解:精神病理学と神経科学の橋渡しとしての計算論的精神医学」
山下祐一(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター神経研究所 疾病研究第七部)
「ニューラルネットワークモデルによる統合失調症でのSense of Agency異常の病態仮説検証」
沖村宰(医療法人社団碧水会 長谷川病院 精神科、慶應義塾大学 医学部 精神神経科)

第2回研究会 総評
平成31年4月12日(金曜日)
沖村宰(碧水会長谷川病院、慶應義塾大学医学部精神・神経学科学教室)
「生物物理学的モデルの概要と精神疾患への適用例」
概要:生物物理学的モデルとは、ニューロンの膜電位などの生物学的システムの知見を数式で表し、ニューロンの発火のタイミングやニューロン同士の相互作用を時空間的に表現し、脳機能とこころを重ね描きしていく生成モデルである。数式には、受容体、イオンチャンネル、神経伝達物質や神経調節物質などが装備され、これらの機能を数値化する。そして、これらの数値を変化させることで精神疾患をモデル化していく。このモデルの利点としては、統合失調症のドーパミン仮説、うつ病のセロトニン・ノルアドレナリン仮説などをシナプスレベルから、症状や治療の検証ができることであり、創薬や遺伝子治療においても、いきなり人や動物を対象に実験検証する前に、理論的示唆を与えることができるということがあげられる。今回は、生物物理学的モデルの代表であり、海外論文ではとても主流であるにもかかわらず、国内での紹介が少ない、Integrate-and-fire modelの概要を説明する。必要最低限の数式を使用するが、研究会中に必ず理解できるようなゼミ形式をとる。次に、統合失調症、ASDなどに適用されている研究を紹介する。研究会の参加後、生物物理学的モデルの論文が読めるようなサポート体制もとる。

第1回研究会 総評
平成31年2月15日(金曜日)
沖村宰(碧水会長谷川病院、慶應義塾大学医学部精神・神経学科学教室)
「計算論的精神医学の紹介」
概要:当教室にて計算論的精神医学研究室を立ち上げさせていただきましたが、この研究室の目的、意義、必要性は、研究室の名前である計算論的(Computational)からはわかりにくいと思います。海外では、例えばNIMHにおいて、バイオマーカーや新規の治療戦略を期待した「Computational Psychiatry Program」が開始され、現ディレクターのJ.Gordonは、2018年のAPA総会で「Computational Psychiatry Might Be Game Changer」と述べ、計算論的精神医学の有用性を強調しています。今回、当研究室の御挨拶もかねて、計算論的精神医学とは何か?精神医学に対して、どういう貢献をできるのか?をご紹介させていただきます。ご興味が少しでもある方々のご参加を期待しております。

Links

慶應義塾大学医学部精神神経科学教室・精神病理学研究室(http://psy.keiomed.jp/byouri.html

国立精神・神経医療研究センター 神経研究所 疾病研究第七部 計算論的精神医学研究室
https://www.ncnp.go.jp/nin/guide/r7/lab/lab02.html

計算論的精神医学コロキウム(https://researchmap.jp/index.php?page_id=13205#_19699

Publications

  • Shared Monitor -Body Weight-(APP on Apple Store), Dec 6, 2023.
    https://apps.apple.com/jp/app/shared-monitor/id6471931271
  • Tsukasa Okimura, Takaki Maeda, Masaru Mimura, Yuichi Yamashita (2023). Aberrant sense of agency induced by delayed prediction signals in schizophrenia: a computational modeling study. Schizophrenia ;9(1):72.
    PMCID: PMC10579420 DOI: 10.1038/s41537-023-00403-7
  • Shared Monitor -Body Weight-(APP on Google Play), Sep 12, 2023. https://play.google.com/store/apps/details?id=com.sharedmonitor.blp
  • Kisho Obi-Nagata, Norimitsu Suzuki, Ryuhei Miyake, Matthew L MacDonald, Kenneth N Fish, Katsuya Ozawa, Kenichiro Nagahama, Tsukasa Okimura, Shoji Tanaka, Masanobu Kano, Yugo Fukazawa, Robert A Sweet, Akiko Hayashi-Takagi (2023). Distorted neurocomputation by a small number of extra-large spines in psychiatric disorders. SCIENCE ADVANCES. 9(23).
  • 大井博貴、前田貴記(2023). 統合失調症における自我障害の神経科学的な理解.臨床精神医学, 52 (5) , 519-526.
  • AGENCY TUNER for Artists(APP on Google Play), Feb 15, 2023. https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.art.re.agencytuner.blp
  • 濱谷尚志, 山本直樹, 荒川大輝, 檜山聡, 姚文昊, 上西康平, 太田順, 寺澤悠理, 沖村宰, 前田貴記(2023). スマートフォンログに基づくwell-being 指標と下位尺度の推定. 情報処理学会論文誌, 64(1), 134-144.
  • Mood Swing Monitor(APP on Apple Store), Jan 13, 2023. https://apps.apple.com/jp/app/mood-swing-monitor/id1658996068
  • Mood Swing Monitor(APP on Google Play), Nov 26, 2022. https://play.google.com/store/apps/details?id=com.moodswingmonitor.blp&hl=jp&gl=jp
  • Wenhao Yao, Kohei Kaminishi , Naoki Yamamoto, Takashi Hamatani, Yuki Yamada, Takahiro Kawada, Satoshi Hiyama, Tsukasa Okimura, Yuri Terasawa, Takaki Maeda, Masaru Mimura and Jun Ota (2022) . Passive Way of Measuring QOL/Well-being Levels Using Smartphone Log. Frontier in Digital Health, 4: 780566. https://doi.org/10.3389/fdgth.2022.780566
  • 濱谷尚志, 落合桂一, 山本直樹, 深澤佑介, 木本勝敏, 上西康平, 太田順, 寺澤悠理, 沖村宰, 前田貴記(2021). 時空間的なスマートフォンログ分析に基づく利用者のストレス推定手法. 情報処理学会論文誌, 62(4), 1-15.
  • Yamashita Y* (2020) Psychiatric disorders as failures in the prediction machine. Psychiatry and Clinical Neurosciences, 75: 1-2.
  • Idei H, Murata S, Yamashita Y* and Ogata T* (2020) Homogeneous Intrinsic Neuronal Excitability Induces Overfitting to Sensory Noise: A Robot Model of Neurodevelopmental Disorder. Front. Psychiatry 11:762.
  • Kato A, Kunisato Y, Katahira K, Okimura T, Yamashita Y* (2020) Computational Psychiatry Research Map (CPSYMAP): a New Database for Visualizing Research Papers, Front. Psychiatry 11:578706. doi:10.3389/fpsyt.2020.578706
  • Shiro Yano, Yoshikatsu Hayashi, Yuki Murata, Hiroshi Imamizu, Takaki Maeda, Toshiyuki Kondo(2020). Statistical Learning model of the Sense of Agency, Frontiers in Psychology 11: 539957. https://doi.org/10.3389/fpsyg.2020.539957
  • ”AGENCY TUNER”(APP on Google Play), Apr 6, 2020.
  • Kentaro Katahira, Yoshihiko Kunisato, Tsukasa Okimura, Yuichi Yamashita (2020). Retrospective surprise: A computational component for active inference, Journal of Mathematical Psychology 96:1-10.https://authors.elsevier.com/a/1asZj53najk7%7E
  • 宗田卓史・国里愛彦・片平健太郎・沖村宰・山下祐一(2020). 計算神経科学と精神医学 ― 情報の観点から精神疾患を見る. 精神医学の基盤4 精神医学の科学的基盤. 学樹書院.
  • 山下 祐一(2020). 脳の計算理論に基づく発達障害の病態理解. 発達障害の精神病理 II. 星和書店.
  • 前田貴記(2019).Sense of Agency:自己意識の神経心理学.神経心理学, 35, 178-186.
  • 沖村宰・片平健太郎・国里愛彦・山下祐一(2019). 統合失調症のコンピュータシミュレーション. BRAIN and NERVE−神経研究の進歩, 71, 771-783.
  • 前田貴記(2019). 精神病理学と生物学の連繋-ありうべき方法論-. 精神科治療学, 34, 613-619.
  • 前田貴記(2019). 主体性の精神医学-精神病理学と生物学とが重なるところ. 精神医学, 61, 507-515.
  • Yusuke Fukazawa, Taku Ito, Tsukasa Okimura, Yuichi Yamashita, Takaki Maeda, Jun Ota (2019). Predicting anxiety state using smartphone-based passive sensing. Journal of Biomedical Informatics 93: 103151.
  • 国里 愛彦・片平 健太郎・沖村 宰・山下 祐一(2019). 計算論的精神医学: 情報処理過程から読み解く精神障害.勁草書房.
  • Idei H, Murata S, Yamashita Y, Tani J and Ogata T (2018). A neurorobotics simulation of autistic behavior induced by unusual sensory precision, Computational Psychiatry 2: 164–182. https://doi.org/10.1162/cpsy_a_00019
  • 片平健太郎・山下祐一 (2018). 計算論的アプローチによる精神医学の研究方略および疾病分類の評価. 精神医学, 60, 1297-1309.
  • Katahira, K., & Yamashita, Y. (2017). A theoretical framework for evaluating psychiatric research strategies. Computational Psychiatry, 1, 184-207.
  • Okimura, T., Tanaka, S., Maeda, T., Kato, M., & Mimura, M. (2015). Simulation of the capacity and precision of working memory in the hypodopaminergic state: Relevance to schizophrenia. Neuroscience, 295, 80-89.
  • 山下祐一 (2014). 精神医学研究の新潮流 Computational Psychiatry 2013. 精神医学, 56, 270-271.
  • 山下祐一・松岡洋夫・谷淳 (2013). 計算論的精神医学の可能性適応行動の代償としての統合失調症.精神医学, 55, 885 - 895.
  • Takaki Maeda, Keisuke Takahata, Taro Muramatsu, Tsukasa Okimura, Akihiro Koreki, Satoru Iwashita, Masaru Mimura, Motoichiro Kato (2013). Reduced sense of agency in chronic residual schizophrenia with predominant negative symptoms. Psychiatry Research 209: 386-392.
  • Takaki Maeda, Motoichiro Kato, Taro Muramatsu, Satoru Iwashita, Masaru Mimura, Haruo Kashima (2012). Aberrant sense of agency in patients with schizophrenia: forward and backward over-attribution of temporal causality during intentional action. Psychiatry Research 198: 1-6.
  • Yamashita, Y., & Tani, J. (2012). Spontaneous Prediction Error Generation in Schizophrenia. PLoS ONE, 7(5), e37843.