社会精神医学研究室

はじめに

精神科医療には、包括的な視点とアプローチが求められます。診察室で患者さんの話を傾聴して適切な薬剤を処方すれば、精神症状は改善するかもしれませんが、日常生活、人間関係、就学や就労など、患者さんの生活全体を回復していくためには、生物学的-心理的-社会的(Bio-Psycho-Social)な視点に立った、包括的で統合された治療が必要です。当研究室では、これらの治療の基礎となる研究に取り組むとともに、エビデンスに基づいた包括的治療を実際に地域社会で展開しています。

また、わが国で高齢化が進むなか、精神障害者における高齢化や高齢者・超高齢者のメンタルヘルスについてもコホート研究により検討しています。

「リカバリーのためのワークブック-回復を目指す精神科サポートガイド」

(水野雅文、藤井千代、佐久間啓、村上雅昭編. 中央法規, 2700円)

精神疾患からの回復(リカバリー)、地域で自分らしい生活を送るのに必要は視点をまとめた当事者・家族・治療者のためのツールで、ワークシートを多数収載しています。使い方をわかりやすく解説し、さまざまな臨床場面で役立てられます。

勉強会

精神科臨床で気になるトピックスや技法をワークショップ形式で勉強します。若手医師対象としていますが、中堅・ベテランの先生方の参加も歓迎いたします。2020年からは、オンラインで開催しています。

2020年度
第1回 6月30日「明日から使えるCBT的介入」(慶應義塾大学医学部精神神経科学教室 専任講師 新村秀人先生)
第2回 7月28日「LAIで統合失調症患者のみらいをつくる -LAIを正しく使ってみよう- 2020」(聖マリアンナ医科大学神経精神科 医長 小口芳世先生)
第3回 8月25日「超実践的心理教育(仮)」(大泉病院地域診療部 部長 山澤涼子先生)
第4回 10月13日「発達障害の最前線(仮)」(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 児童・予防精神医学研究部 児童・青年期精神保健研究室 室長 熊崎博一先生)
第5回11月17日「精神疾患の予防と回復-学校精神保健への期待(仮)」(東邦大学医学部精神神経医学講座 教授 水野雅文先生)

拡大勉強会

製薬会社との共催で、臨床の第一線でご活躍の先生にお話を伺う講演会です。(2020年の開催は未定)

研究活動

現在以下のような研究を行っています。

  • 高齢者のメンタルヘルス:都内の自治体と共同し、65歳・85歳・95歳以上の高齢者のメンタルヘルスについて、認知機能・身体活動量・心理社会的要因・ポジティブ心理学に注目し、地域ベースのコホート調査を行っています。
  • 社会機能を回復させる精神科リハビリテーション・プログラムの開発:通常の外来デイケアで行っている全員一律のプログラムではなく、①認知機能(特に発散的思考)に着目したプログラム、②個別の特性に配慮し就労を目指す機能分化プログラム、③入院中の急性期からリハビリテーション介入を開始する早期プログラム を開発し、社会機能改善の効果検証を行っています。
  • 精神科地域ケアの長期コホート研究:長期入院していた患者の地域移行プロジェクトが15年を超えました。その長期予後をコホートとして追跡し、精神科地域ケアのアウトカムを検証しています。
  • 精神病未治療期間(DUP):精神病発症から専門的治療開始までのタイムラグ(DUP)を短縮することが求められています。精神科病院とクリニックでDUPは異なるのか、10年間でDUPは変化したのかなどの検討を行い、わが国における早期介入の可能性について検討しています。
  • 初回エピソード精神病のプロスペクティブ・スタディ:若年者に特化したデイケアにおいて、精神病発症危険状態(ARMS)や初発統合失調症に対する治療的介入とその検証を行っています。
  • 精神障害者のサクセスフル・エイジング:一般人口の高齢化とともに、精神障害者の高齢化も見逃せない現実です。高齢精神障害者の心身・認知機能がケアのニーズにどのように関連しているのか、精神障害者の幸せな老いとは何かについて考えています。
  • 震災とメンタルヘルス:東日本大震災の震災から10年が経ちました。被災地の精神科医療についてフィールドワークを行いながら、震災がメンタルヘルスに与える影響について長期的な視点から検討しています。
  • 精神科臨床倫理:精神障害者の治療同意に関わる判断能力についてどう考えるのかなど、精神科医療を行っていく上で課題となる倫理的な問題の検討を行っています。

地域における包括的治療の取り組み

イアン・ファルーン教授(1945-2006年)の提唱した、エビデンスに基づいた最適な治療である統合型地域精神科治療プログラムOTP(Optimal Treatment Program)にのっとり、わが国での先進的な取り組みとして、以下のような臨床実地活動を行っています。

  • NPO法人みなとネット21:東京都港区をキャッチメント・エリアとして、多職種チームのアウトリーチによる認知行動療法を用いた個別的支援を提供しています。この活動に対して、2003年6月日本精神神経学会より精神医療奨励賞を授与されました。
  • ささがわプロジェクト:福島県郡山市のあさかホスピタルの協力のもと、精神科病院に長期入院していた多数の患者さんが、グループホームやアパートで地域生活を送るにあたり、OTPに基づいた治療や就労支援などのサポートを提供しています。プロスペクティブ・スタディも同時に行っています。本プロジェクトに対して、2016年6月日本精神神経学会より精神医療奨励賞を授与されました。
  • イルボスコ:東邦大学医学部精神神経医学講座と協力し、初回エピソード精神病や精神病発症危険状態(ARMS)の診断・治療を行うとともに、若年者に特化したデイケアにおいて、認知機能リハビリテーション・プログラムの開発も行っています。

当研究会の業績(書籍、論文、学会発表)

社会精神医学研究会 業績集

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