社会精神医学研究室

はじめに

精神科医療には、包括的な視点とそれに基づくアプローチが求められます。

診察室で患者さんの話を傾聴し、適切な薬剤を処方することで、精神症状は改善するかもしれませんが、日常生活が円滑に営めない、人間関係がうまくいかない、就学や就労できないなど、患者さんの悩みや苦しみは多種多様です。

これらの問題に対して、生物学的-心理的-社会的(Bio-Psycho-Social)な視点に立った、包括的で統合された治療が有効であり、その発展が望まれています。

当研究室では、これらの治療の基礎となる研究に取り組むとともに、エビデンスに基づいた包括的治療を実際に地域社会で展開しています。

また、わが国で高齢化が進むなか、精神障害者における高齢化や高齢者のメンタルヘルスについても取り組んでいます。

研究や活動について

研究活動

現在以下のような研究を行っています。

  • 社会機能を回復させる精神科リハビリテーション・プログラムの開発
    通常の外来デイケアで行っている全員一律のプログラムではなく、①認知機能(特に発散的思考)に着目したプログラム、②個別の特性に配慮し、就労を目指す機能分化プログラム、③入院中の急性期からリハビリテーション介入を開始する早期プログラム を開発し、社会機能改善の効果検証を行っています。
  • 精神科地域ケアの長期コホート研究
    長期入院していた患者の地域移行プロジェクトが10年を超えました。その長期予後をコホートとして追跡し、精神科地域ケアのアウトカムを検証しています。
  • 精神病未治療期間(DUP)
    精神病発症から専門的治療開始までのタイムラグ(DUP)を短縮することが求められています。精神科指定病院とクリニックでDUPは異なるのか、10年間でDUPは変化したのかなどの検討を行い、わが国における早期介入の可能性について検討しています。
  • 初回エピソード精神病のプロスペクティブ・スタディ
    若年者に特化したデイケアにおいて、精神病危険状態(ARMS)や初発統合失調症に対する治療的介入とその検証を行っています。
  • 精神障害者のサクセスフル・エイジング
    一般人口の高齢化とともに、精神障害者の高齢化も見逃せない現実です。高齢精神障害者の心身・認知機能がケアのニーズにどのように関連しているのか、精神障害者の幸せな老いとは何かについて考えています。
  • 超高齢者のメンタルヘルス
    都内の自治体と共同し、85歳・95歳以上の超高齢者のメンタルヘルスについて、心理社会的要因・ポジティブ心理学にも注目し、人口ベースの疫学調査を行っています。
  • 学校におけるメンタルヘルス教育
    精神科医による学校への出張授業を行いながら、小中学校・高校において、あるべきメンタルヘルス教育の内容について検討しています。
  • 震災とメンタルヘルス
    東日本大震災の震災から5年が経ちました。被災地の精神科医療についてフィールドワークを行いながら、震災がメンタルヘルスに与える影響について長期的な視点から検討しています。
  • 精神科臨床倫理
    精神障害者の治療同意に関わる判断能力についてどう考えるのかなど、精神科医療を行っていく上で課題となる倫理的な問題の検討を行っています。

地域における包括的治療の取り組み

イアン・ファルーン教授(1945-2006年)の提唱した、エビデンスに基づいた最適な治療である統合型地域精神科治療プログラムOTP(Optimal Treatment Program)にのっとり、わが国での先進的な取り組みとして、以下のような臨床実地活動を行っています。

  • NPO法人みなとネット21
    東京都港区をキャッチメント・エリアとして、多職種チームのアウトリーチによる認知行動療法を用いた個別的支援を提供しています。この活動に対して、2003年6月日本精神神経学会より精神医療奨励賞を授与されました。
  • ささがわプロジェクト
    福島県郡山市のあさかホスピタルの協力のもと、精神科病院に長期入院していた多数の患者さんが、グループホームやアパートで地域生活を送るにあたり、OTPに基づいた治療や就労支援などのサポートを提供しています。プロスペクティブ・スタディも同時に行っています。
  • イルボスコ
    東邦大学医学部精神神経医学講座と協力し、初回エピソード精神病や精神病発症危険状態(ARMS)の診断・治療を行うとともに、若年者に特化したデイケアにおいて、認知機能リハビリテーション・プログラムの開発も行っています。

当研究会の著作物(市販されている主なもの)

研究論文発表を行うのみならず、臨床現場での包括的治療に関する実用的書籍を刊行し、海外の優れた先進的研究をわが国に紹介するために翻訳書籍を出版しています。

水野雅文、丸山晋、村上雅昭、野中猛 監訳:
インテグレイテッド・メンタルヘルスケア-病院と地域の統合をめざして

中央法規出版,東京,1997年刊行

イアンR.H.ファルーン、鹿島晴雄 監修 水野雅文、村上雅昭 編著 慶應義塾大学医学部精神神経科総合社会復帰研究班著:
精神科リハビリテーション・ワークブック

中央法規出版,東京,2000年刊行

鹿島晴雄 監修 水野雅文、村上雅昭、藤井康男 監訳 P. McGorry著:
精神疾患の早期発見・早期治療

金剛出版,東京,2001年刊行

H. Kashima, IRH Falloon, M. Mizuno, M. Asai (Eds)
Comprehensive Treatment of Schizophrenia.

Springer-Verlag, Tokyo, 2002

水野雅文、村上雅昭 監訳 J. Edwards, P. McGorry著
精神疾患早期介入の実際-早期精神病治療サービスガイド

金剛出版,東京,2003年刊行

水野雅文、村上雅昭、佐久間啓 編
精神科地域ケアの新展開-OTPの理論と実際
星和書店,東京,2004年刊行

水野雅文 編著
統合失調症の早期診断と早期介入 (専門医のための精神科臨床リュミエール 5)

中山書店,東京,2009年刊行

水野雅文、鈴木道雄、岩田仲生 監訳 H. Jackson, P. McGorry編
早期精神病の診断と治療

医学書院,東京,2010年刊行

水野雅文 監訳 小林啓之 訳 T. McGlashan, B. Walsh, S. Woods著
サイコーシス・リスク シンドローム-精神病の早期診断実践ハンドブック
医学書院,東京,2011年刊行

水野雅文、藤井千代、村上雅昭、菅原道哉 監訳 S. Block, S. Green編
精神科臨床倫理 第4版
星和書店,東京,2011年刊行